[陸上競技部]”たまらない瞬間” |
2012.09.05 |
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"マイルの武南"復活劇の舞台裏
インターハイ5位入賞
今回の“マイルリレーチーム”の快挙は、1年前から虎視眈々と計画された結果だった。
大人気企画、陸上部顧問尾花監督の舞台裏レポートが届きました。熱くって温かい監督の眼差しでつづられたレポートは、会場ビッグスワンの最前列に読む者を誘います。監督が経験されたインターハイでの”たまらない瞬間”を味わってみてください。
<監督レポート>
この時間がいつまでも続いて欲しい。そう、思える至福の時間でした。
8月2日15時45分を過ぎ、いよいよ男子4×400Rファイナルまで1時間を切りました。招集開始の16時15分までも30分。選手がウォーミングアップ会場に向かいました。
7月29日から始まった新潟インターハイ。前々日の7月27日より全国の選手が続々新潟入りし、決戦ムードが高まります。その頃のウォーミングアップ会場・メイン競技場は、これから始まる各種目の頂点を獲るべく集まった高校生アスリートの熱気によって、新潟の猛暑はさらに熱くなっていました。しかしながら、競技前々日や競技前半は、その選手の数の多さに圧倒されます。ウォーミングアップ会場も大混雑で自分の走路を確保してアップするのも大変なくらいでストレスも相当たまります。それが初日、2、3、4日目、そして最終日の5日目と進むに連れて競技が少なくなり出場選手も減ってきます。最終日の男女最終種目の4×400Rを残すだけの頃になると、あれだけ賑やかだったアップ会場も出場する男女8チームだけになります。さらに先に競技が行われる女子の招集が始まると、アップ会場は、いよいよ本当にシーンと静まりかえります。その静寂の中を、武南のメンバーがゆっくりとアップを開始します。走路を確保するような煩わしさからも解放され、悠々とアップに専念できます。まさにファイナル出場を許されたチームにのみ与えられた特権です。そんな至福の時間を過ごすことができて本当に幸せです。残念ながら他の種目のファイナル出場でも、この至福の時間は与えられません。毎年、最終日の最終種目である男子の4×400Rだけです。この“快感”は経験した者にしかわからないと聞かされていました。陸上王国埼玉を持ってしても、まだ数校しかありません。アップ会場に行って選手のアップを見つめながら、先輩諸氏の言っていたことが実感できました。何とも言えない満足感、そしてこれから始まる、ファイナルを迎える高揚感、言葉が貧弱で申し訳ありませんが、“たまらない”の一言です。
選手のアップも無事に終わり、招集開始です。監督と選手が話せるのもここまでです。招集所に向かう選手に一言、声をかけて送り出しました。あとは、選手がどこまで走れるかです。
さて、その決勝の前に、予選から振り返ってみたいと思います。
8月1日に予選がありました。予選は8組2着までと3着以下のタイム上位8チームの合計24チームが準決勝進出でした。武南は4組からのスタートでした。その武南のインターハイまでのベスト記録が3′14″90。4組には全国ランキングトップの3′12″92の記録を持つ名古屋大谷高校(愛知)と3′14″81をマークしている宇治山田商(三重)がエントリーされました。両校ともリレーの名門校です。いきなり大変な相手と走ることになり苦戦が予想されました。
ましてや今回のメンバーは3年の伊藤健太・陰山東洋こそ去年もインターハイを経験していますが他のメンバーは誰もインターハイを経験していません。さらに今回あとの2人は1年生の白幡大輝・荒木孝一です。力はあっても、いきなりのこの大舞台で舞い上がってパニックになってもおかしくない状況です。監督としても“やってくれるだろう”という思いと“何とか力を出しきってくれ”という思いの両方でした。そんな中で始まった予選。1組でいきなりトップの八王子高校(東京)をはじめ3′14″台が3校も出ました。4位の学校も15″台です。一昔前なら準決勝通過レベルです。恐ろしいくらいの高速ハイレベルの予選1組でした。さらに2組ではそれを上回りトップの大阪高校(大阪)が13″台、そして4位までが14″台をマークしました。3着以下のプラス8もどれくらいのタイムで拾われるか全く読めない状況になってきました。ただ一つわかったのは予選からチーム新、120%全力でいかなければ予選敗退しそうだということです。そして直前の3組も3位までがまたしても14″台でした。武南も調子は悪くないので、力を出し切れば14″台前半、いや13″台も出ると確信していましたが、とにかく予想以上のハイレベルで3組まで終わりました。
武南の1走は1年生の白幡大輝。この春から不動の1走です。1年生ながら確実な走りをしてくれます。インターハイを決めた関東大会でも、鋭い飛び出しから好位につけ、良い流れを作ってくれました。
2走は3年生の陰山東洋。伊藤と共に3年間このチームを支えてきました。ここに来て調子もあがってきており、1走白幡が出遅れれば、追い上げなければなりませんし、良い位置でくれば、最低でもその位置をキープし、リードを広げるのが求められる重要な役割です。今回のインターハイでも一番のキーポイントになるのが陰山だと考えていました。3走は6月に入りグングン調子を上げてきた、もう一人の1年生荒木孝一です。もともと800mを中心に400mをやっていた彼は、入学後、中学校の土のグランドからオールウェザーの競技場に環境が変わり、脚に痛みが出て5月末まではほとんど練習ができず、その頃は、このインターハイに出場することなど夢のまた夢でした。しかし、そこで慌てず、腐らず、そして耐えながらチャンスを待ちました。そのチャンスをものにしました。
そしてアンカーはこのチームのエース伊藤健太。今回、個人の400mは予選で自己タイを出し、決勝進出、入賞は大丈夫だと思っていたのですが、準決勝で走りが変わってしまい、無念の二年連続準決勝落選となってしましました。中2日明けて、気持ちの整理ができているかがカギでした。
現状、ベストの4人が力通りの走りをしてくれればと思い送り出しました。結果はチームベストを100分の1秒更新する3′14″89で1位通過となりました。自分達よりランキング上位の学校を倒して、チーム新の1位通過ですから勢いがつきました。1走の白幡がやはり緊張からか本来の走りからほど遠かったのですが、2走陰山が6、7番手から一気に首位へ導く快走をみせてくれました。レース前に想定していた展開通りになりました。
翌日は最終日。昼過ぎの準決勝、そして夕方の決勝と1日2本の勝負です。とにかく、この準決勝を通らなければ決勝もないので、まずは決勝のことを考えずに準決勝に全力でいくしかありません。準決勝は3組2着までと3着以下タイム上位の2校が決勝進出となります。全国の精鋭24校、3組による激しいレースです。武南は1組に入りました。相手は東京(東京)・相洋(神奈川)・浜松市立(静岡)など、リレーの強豪校ばかりです。この3校が男女の4×100R、4×400Rで全国優勝した数はかなりの数になります。全国屈指のリレーの名門校です。しかし、この強豪校の一角を崩さなければ念願の決勝進出はなりません。逆に言えば、ここをトップで通過できれば全国の頂点も視野に入ります。まさにチームの成績を左右する大一番でした。選手には2位狙いでなく1位を目指そうと、そしてトップ通過で優勝を狙いに行こうと送り出しました。オーダーは昨日の予選と同じです。予選では冴えなかった白幡が、この日はよく走りました。トップとほとんど差のないところでバトンを2走陰山へ。
依然、好調の陰山は、この日も調子よく前半から良く伸び、早々と先頭集団へ。しかし、上位はやはり予想された3校に武南を加えた4校の争いに。
問題はこの3走で離されないでアンカーにどれだけ良い位置でバトンを渡せるかです。3走の荒木にとってはこれ以上ない緊張の場面だったと思いますが、良く走りました。相洋・東京に続いてやや離れた位置でしたが3番手でバトンを渡しました。
あとは、伊藤が確実に2位に入る走りをしてくれれば決勝進出が見えてきます。アンカーの中では伊藤より持ちタイムがある東京高校が強敵中の強敵です。東京より後ろの位置では交わせないかもしれないと思っていたのですが、その通りの結果になりました。追い詰めましたが東京高校に次ぐ2位でした
しかしそのタイムは、3′12″94という大幅なチーム新記録でした。そして準決勝全てが終わり全体で3番手のタイムで決勝進出を果たしました。優勝争い、そして栄光のゴールも見える位置まできました。長くなりましたが、これが準決勝までの様子です。
その、準決勝の興奮も冷めやらぬうちに、決勝までのプランを描きました。どうしたら全国の頂点を獲ることができるか?一抹の不安は、やはり1年生の2人でした。ここまで本当に良く走っています。しかしながら、緊張やフィジカルの面であと1本が効くかどうか、もう切れるカードがないわけでなく、メンバーに入ってる2年生も動きは悪いわけではなかったので“動く”ことも可能でした。監督としての手腕が問われるところであり、決断を迫られる瞬間でした。出した答えは、“この流れが悪いわけではない、準決勝で3′12″台まで行ったチームを信じようという”結論でした。
いよいよ決勝です。ファイナルに進出した残りの7校は東京(東京)、洛南(京都)、名古屋大谷(愛知)、相洋(神奈川)、大阪(大阪)、八王子(東京)、乙訓(京都)です。その中でも、準決勝で武南を上回った東京・洛南が最大のライバルです。4レーンに洛南、5レーンに武南、そして6レーンに東京と最強の2校に挟まれる形でのレーンになりました。
招集所から選手を送り出す瞬間、何とも言えない気持ちになりました。結果云々ではなく、このレースで終わってしまう寂しさを感じました。それは、卒業式のあと、生徒を連れて花道を通るのと同じ感覚かもしれません。そしてホールの出口で別れを告げる時の寂しさと、そして頑張れよと背中を押してあげたくなる気分。それに近いものを感じました。この4人が、これから見せてくれるパフォーマンスに期待を寄せながら、そしてこの新潟インターハイが終わってしまうのかというせつなさ。その2つが入り交じった気分でした。
女子のリレーが終わり、選手がスタンドに入ってきました。
そしてアナウンスが始まり8チームが紹介され、スタートの瞬間がやってきました。
ピストルが鳴り、スタート。1走の白幡が勢いよく走り出しました。1走はセパレートコースなので順位の確認がなかなか難しいのですが、途中、インコースから追い上げてきた洛南には完全にかわされ、そのまま後方に沈んでしまうかと思われたのですが、後半良く盛り返しました。
何とか、ほぼリミットの先頭集団と差のないところでのバトンパスで、2走陰山につなぎました。陰山がスタートして100mを過ぎたところでオープンになり順位が確認できました。先頭、洛南、それを追って相洋、名古屋大谷、そして東京と競る形で武南は4番手争いの展開になりました。そして、ほぼそのままの隊形で2走から3走へのバトンパスとなりました。
どこの学校もアンカーの4走はエース級が揃っています。したがって、アンカーにどの位置で渡せるかというのが大きなポイントになります。つまり3走の出来がそのまま、チームの最終成績に直結すると言っても過言ではありません。武南にもそれがあてはまります。一番の心配所がこの3走でした。予選・準決勝と良く走った荒木ですが、やはりこの最後の最後で、少しへばりました。バトンをもらってバックストレートに入るまでは何とか前に付いていたのですが、200mくらいから前の4校から離され始めました。
最後の直線に入った時には前4校と後4校に完全にわかれてしまい、武南は後ろのグループの先頭の5番手でアンカー伊藤にバトンを渡しました。この時点で前を行く4校とは10m以上、タイムにして1〜2秒は差をつけられてしまいました。これまで、何度もピンチを救ってきて、信じられないような位置から届いたこともあった、エースの伊藤ですが、全国の頂点がかかるレースのアンカーはどこも強く、優勝するには絶望的な差でした。それでも今までと同じように、決して諦めることなく、前を見据えて、飢えた狼が全力で獲物を捕まえるかのように全力で追いかけました。
バトンをもらった位置では10m以上あった差を詰めていきます。10m、7m、5m、3m、そして最後の直線に入った時には先頭集団にあと1、2mまで迫り、捕らえるかの凄まじい走りでした。しかし、ここから奇跡は起きませんでした。前の4校のスパートに反応できる力がさすがに残っていませんでした。3′13″54のチームセカンドベストでの5位。恥じることは全くありません。むしろ、誇るべきタイムであり、順位です。選手も終わったあとの顔は悔しさもあったはずでしょうが、走り終わった達成感、全国の頂点を争った充実感で笑顔が溢れていました。素晴らしい顔をしていました。私も同じ気持ちになりました。こんな気持ちにさせてくれた選手を誇りに思いますし、感謝の気持ちでいっぱいです。
毎年、毎年、このために1年間、厳しいトレーニングをして、心身を鍛えてきました。選手も色々な制約ややりたいことを我慢して節制してつかんだ全国入賞です。それだけにその価値は計り知れないものがあり、達成感に満ちあふれているのだと思います。全国5位入賞、文字にすれば簡単ですが、ここまで来るのは本当に大変でした。多くの方の協力・理解があってはじめて達成できたと思っています。今回の全国入賞の要因は、いろいろあったと思います。その原点は去年の8月、岩手のインターハイでの惨敗、その後の、新潟での合宿だったと思います。新潟インターハイ1年前に現地に行き、そして本番と同じ競技場で走れる日を見つけて合宿を行いました。そして、“ビッグスワン”で走ったことで選手のハートに火が灯りました。“この競技場でまた惨めな負け方はしたくない”。この合宿から全てが始まったと言っても過言ではありません。“絶対に新潟でファイナル進出を果たす”それが、いつのまにかチームの合い言葉になっていたと思います。
1年前に翌年のインターハイ会場を訪れて合宿をすることが正しいかどうかはわかりません。それだけでインターハイにいけるなら誰でもそうするでしょう。しかし、そこに信念があれば話は違います。選手が力を出せるような環境やモチベーションを作りだすのが我々の仕事です。その信念を持って計画・準備をしました。ここには書ききれないこともたくさんあります。それだけに我々スタッフも結果を出せたことに喜び・達成感がありますし、自信を持つことができました。また選手も、やればできるということを感じたと思います。その無限の財産をこれからも陸上競技部の宝として、また来年もチャレンジしたいと思います。入賞した来年こそが本当に大事な年であると同時に、これを続けられるかどうかが本当の意味で武南の陸上競技部が全国の強豪校の仲間入りをできるかどうかだと思います。我々のチャレンジにゴール、フィニッシュはありません。私自身、自分が頂点を目指して走っていた17、18歳の頃の気持ちに戻っているようです。純粋に全国の頂点を目指したいという気持ちがさらに強まっています。
最後にいつも陸上競技部に有形無形のご声援・ご支援をしていただいてる全ての関係者の皆様に、遅くなりましたが感謝を述べたいと思います。これからもよろしくお願い申しあげます。
選手たちの活躍を、武南陸上競技部HPでもご覧ください。